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名古屋高等裁判所 昭和54年(ネ)395号 判決

控訴人 楠玩具株式会社

右代表者代表取締役 楠圓次

右訴訟代理人弁護士 岩田孝

同 鶴見恒夫

右訴訟復代理人弁護士 樋口明

被控訴人 日本国有鉄道

右代表者総裁 高木文雄

右訴訟代理人弁護士 森本寛美

右訴訟代理人 浅野昭二

〈ほか三名〉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金一一四万一七五〇円及びこれに対する昭和四九年七月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文同旨の判決並びに控訴人の請求が認容された場合につき担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。

当事者双方の主張並びに証拠関係は、次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(訂正・削除)

一  原判決八枚目表二行目から七行目まで((四)項全部)及び同裏七行目から八行目にかけてのかっこ書き部分、並びに同一五枚目表二行目から同裏六行目まで((四)項全部)をそれぞれ削る。

二  原判決添付別紙計算表1到着地欄二段目に「中寺」とあるのを「中津」と訂正する。

三  原判決添付別紙計算表2中に、通常到着日数として各「6日」とあるのを各「4日」と、延着日数として「12日」とあるのを「14日」、「17日」とあるのを「13日」とそれぞれ訂正し、原判決一五枚目裏七行目「同5の(一)、(二)の事実は不知。」とあるのを「同5の(一)の事実は不知、同(二)の事実のうち、別紙計算表2中の通常到着日数は争い、延着日数は否認し、その余の事実は不知。」と改める。

(控訴人の主張)

一  控訴人は、単発的に行なわれる一回限りの物品運送とは異なり、長期にわたり間断なく営業上計画された商品運送として国鉄を利用していたものであって、かかる利用関係については法的安定性が保障されなくてはならないから、控訴人の国鉄利用関係は法的保護の対象となるというべきである。すなわち、恒常的に大量の商品を多額の運賃を負担して国鉄により運送している営業者にとっては、そこに運送基本契約が存在するのと実質的に異ならない法的関係が是認されて然るべきである。けだし、日本国有鉄道法三二条、三三条は被控訴人に対し総力をあげて国鉄を公衆の利便に供するよう規定し、また鉄道営業法六条は法定の例外事由のない限り運送を拒否しえない旨規定しているところ、控訴人ら国鉄の利用者は、このような法制度的保障と実際の運送実績とを信じ、運賃・着荷期間等を具体的な計算に入れて運送商品の売買取引条件を決定しているのであるから、右制度的保障や運送実績が被控訴人の一方的違法行為によって破られ、予期された具体的な商取引に被害を受けるに至れば、右被害は法的救済の対象とされて然るべきである。このように、控訴人が国鉄を利用することによる利益が継続的かつ重要なものである以上、該利益が法的保護の対象となることは明らかである。

二  有限会社高岡屋に発送した商品についていうと、これは季節人形等であるから着荷期限が重要視されるのが原則である。右商品については、値引販売されたかあるいは翌年に持ち越されたため、値下げせざるをえなかったものである。

また、小林玩具株式会社に発送した商品は、仮に季節物でなかったとしても、期限に遅れたら賠償するというのが商人間の取引では当然のことで、控訴人が弁償をしたのは怪しむに足らないのである。

三  本件損害は、被控訴人の外部に存する事由によって生じたものではなく、企業内部の労使関係、すなわち、組合側の違法な争議行為とこれを法規に忠実にかつ真摯に抑止しようと努力しなかった使用者側の怠慢という双方の重大な過失もしくは故意のある行為に基づくものであるから、かかる損害については鉄道営業法一二条、鉄道運輸規程三一条、七四条が適用される余地はない。

(被控訴人の主張)

一  国鉄の利用は公衆の日常生活ないし経済生活に重大な関係があるが、公衆において必要があればいつでも国鉄を利用しうるという関係は、国鉄の経営が正常に運行されておれば、国鉄と運送契約を結び、その運行による利益を受けられるという法的関係以前の事実上の便益にすぎない。したがって、国鉄との間に契約関係がなく、単に将来国鉄を利用することを予定しているにすぎない者は、国鉄経営の正常な運行によってもたらされる事実上の反射的利益として、いわゆる期待利益を有するにすぎないのであって、このような期待利益は、未だ法的保護の対象となる利益ではないから、たとえ争議行為の結果、このような期待利益を失うとしても、これにより不法行為法上の損害賠償請求権を取得する余地はない。

そして、このことは、控訴人がたとえ長年月にわたり継続して国鉄を利用してきたとしても、将来契約関係に入ることを予定していたにすぎないという点では一般の国鉄利用予定者と異なるところがないのであって、控訴人のみが一般の国鉄利用予定者と異なり法的保護利益を有するとはいえない。

二  控訴人主張の民法七一五条の使用者責任について。

被控訴人の職員及び労働組合は法律上争議行為を禁止されているが、これに違反して行う違法な争議行為についても、職員が被控訴人の指揮監督を離脱して互いに対立関係にあることには変りがない。したがって、争議行為を行う職員は被控訴人の指揮監督の下に事業の執行をなすものではないから、本件争議行為による損害につき被控訴人は民法七一五条の賠償責任を負うものではない。

仮に被控訴人の職員のなした本件争議行為が被控訴人の事業の執行につきなされたものであるとしても、被控訴人の当局者は本件争議行為を回避するためにあらゆる努力を尽したのであるから、被控訴人は被用者の選任及びその事業の監督につき相当の注意をしたものであって、民法七一五条一項但書により本件争議行為による損害につき賠償責任を負わない。

三  控訴人主張の他社トラック便切替による損害について。

控訴人は国鉄に対して運送の申込をしたけれども、争議中であることを理由にその引受を拒否されたというのではなく、控訴人自身が「キワ物」を国鉄便で輸送していては間に合わないと判断したため、トラック便を選択しこれに輸送を託したのであるから、その選択の結果として生ずる損益が控訴人に帰するのは当然である。また、鉄道は今日においては独占的運輸機関ではなくなっており、たとえ国鉄の運行が一時停廃状態に陥ったとしても、一般荷主にトラック運賃差額なる損害が直ちに発生するとはいいがたいから、右損害は本件争議行為と相当因果関係のある損害とはいえない。したがって、被控訴人には右損害の賠償責任がない。

四  控訴人主張の延着による損害について。

控訴人は、この点について不法行為の成立要件及び被侵害利益の内容等を明らかにしていないから主張自体失当である。仮に、訴外有限会社高岡屋及び小林玩具株式会社が何らかの損害を被ったとしても、控訴人が右訴外人らに対して売買代金を値引きしたのは、商業上の取引として任意に決定したものであって、値引きしなければならない法律上、契約上の義務はないから、右損害は延着と相当因果関係はない。

仮に右主張が理由がないとしても、鉄道運送における運送品の延着による鉄道の損害賠償責任については、特別法である鉄道営業法一二条、鉄道運輸規程三一条、七四条の規定によって、その成立要件及び賠償額は法令上限定されているところ、右規定は同一の事実関係に対しては債務不履行責任についてのみではなく不法行為責任についても適用されると解すべきである。けだし、右規定は、運送企業が大量の運送品を頻繁に運送する公共運輸機関としての性質上、その業務の合理的運営を図るとともに、他方、できるだけ低廉な運賃をもって公衆の利用に供する必要があるため、無期限な責任を課することは妥当でないという趣旨に基づいて運送企業を保護助長するために設けられているものであるから、不法行為責任については右規定の適用がないとすれば、その立法趣旨は没却されるにいたるからである。しかるに、控訴人主張の右損害は、右規定による賠償の対象となるものではないから、被控訴人は賠償責任を負わない。

理由

一  被控訴人にその職員の結成した労働組合としていわゆる動労と国労とがあり、右両労組が昭和四八年三月中いわゆる春闘の一環として争議行為を行ったこと、右争議行為における要求、日時、規模、経過及び影響等並びに控訴人の業態については当裁判所の認定は原審と同一であるから、原判決理由第一、二項の記載をここに引用する。

二  そこで、控訴人主張の他社トラック便への切替による損害賠償の請求について検討するに、当裁判所も右請求は失当として棄却すべきものと考えるのであって、その理由は次に付加するほか、原判決理由第三項に記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴人の右請求の要旨は、本件争議行為によりいわゆる「キワ物」について実質的に被控訴人の運送拒否があったのと同視すべき客観情勢になったため、他社トラック便を利用せざるをえなくなり、国鉄利用権を侵害され損害を被ったというにある。

しかしながら、一般利用者が国鉄を利用して物品を運送する関係は、その者が国鉄と運送契約を締結することによってはじめてその運送利益を受けられることになるのであるから、未だ運送契約関係に入らず、将来国鉄による運送を予定している段階にある者は、国鉄と運送契約関係に入ることによって運送利益を受けられるであろうことの期待を有しているにすぎない。そして、かかる期待は、国鉄が正常に運営されていることによってもたらされる事実上の反射的利益にすぎないというべきであるから、右期待利益は法的保護の対象とはなりえない。

日本国有鉄道営業法三二条が国鉄職員に対しその職場の遂行につき誠実専念義務を規定し、同法三三条が災害による事故発生等の場合に国鉄職員をして労働基準法所定の労働時間にかかわりなく勤務時間を越えて勤務させることができる旨規定しているのは、国鉄の公共交通機関としての重要性に鑑み、その職場の性質及び内容に応じて右のような規定を置いたものにほかならず、また、鉄道営業法六条が法定の除外事由のない限り運送を拒否しえないと規定しているのも、一般利用者が公平に国鉄を利用することができる機会を与えるための配慮にすぎないから、これらの規定は国鉄を利用しうる期待利益が法的保護の対象となる利益と解する根拠とはならない。また、控訴人が長期間にわたり継続して国鉄を利用して来ており、国鉄を利用するにつき大きな利益を受けていたとしても、そのことは国鉄の存在の事実上の反射ないし控訴人の営業の国鉄への事実上の依存関係を意味するにすぎず、そのことによって右に述べた国鉄利用予定という状態の性質が法律的に変化し、右事実上の期待が運送契約関係が存在するのと同視されるような法的関係にまで高められ、国鉄と運送契約関係に入る以前の段階において、既に控訴人が右事実上の期待を越えた法的保護の対象となる利益を有していたとまでは認めがたいといわなければならない。

したがって、控訴人主張の他社トラック便切替による損害は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

三  次に、控訴人主張の延着による損害について検討する。

1  《証拠省略》を総合すると、控訴人は、昭和四八年二月二八日鹿児島市泉町三番二一号有限会社高岡屋に対し、ガラス入り人形ケースを静岡通運株式会社を運送取扱人として国鉄の貨物便により静岡市の佐藤商店から直送したこと、右静通運は三月五日これを発送したこと、静岡・鹿児島間の通常到着日数は四日であり、三月九日に到着すべきところ、本件争議行為のため三月一七日に到着し、八日延着したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

また、《証拠省略》を総合すると、控訴人は、同年三月五日旭川市一条一一丁目小林玩具株式会社に対し、玩具を日通を運送取扱人として国鉄の五トンコンテナにより発送したこと、名古屋・旭川間の通常到着日数は四日であり、三月九日に到着すべきところ、本件争議行為のため三月二二日に到着し、一三日延着したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そこで、右延着につき控訴人主張の不法行為責任の成否を順次検討する。

(一)  民法七一五条による責任について

右延着は被控訴人の職員(被用者)の本件争議行為によって惹起されたものであること、右争議行為が公労法一七条違反の違法な争議行為であり、その実行は当然輸送中の貨物の延着という結果発生の認識を包含することは、上来の認定事実から容易に推認されるところである。

しかるところ、被控訴人は、本件争議行為中の国鉄職員は使用者である被控訴人の指揮監督を離脱しており、被控訴人の指揮監督の下に被控訴人の事業の執行をなすものではないから、右延着につき被控訴人は民法七一五条の使用者責任を負ういわれはない旨主張するので、まずこの点につき検討する。

おもうに、争議行為は本来使用者の指揮監督を全面的にあるいは部分的に拒否して集団的に労働義務を果たさない点にその本質があるから、正当な争議行為を行う被用者に対しては使用者の指揮監督は及ばないが、法律の禁止規定に違反する等の違法な争議行為を行う被用者は使用者の指揮監督を拒否しうる正当性を有しないから、使用者の指揮監督は被用者に対し効力を有し、被用者はこれに従わなければならない筋合いである。しかしながら、被用者が使用者の指揮監督に従わず、争議行為を回避せんとする使用者の努力をも無視して、あえて法律の禁止規定違反等の違法な争議行為に及び使用者としてはいかんともこれを回避しがたい場合も存するのである。労使関係がこのような状態にあるため、使用者が被用者に対し指揮監督の効力を及ぼしうる余地のない局面においては、被用者はもはや使用者の指揮監督を離脱しているものと見るのが相当である。そして、使用者の指揮監督を離脱した被用者の行為は使用者の事業の執行とはいえないから、右行為による結果については、使用者は民法七一五条の不法行為責任を負ういわれはないというべきである。

そこで本件についてこれを見るに、本件争議行為に参加した国鉄職員は、被控訴人の再々にわたる業務命令に従わず、争議行為を回避せんとする被控訴人の当局の努力をも無視して、あえて公労法一七条違反の本件争議行為に及んだものであり、被控訴人としてはいかんともこれを回避することができなかったことは、後記(二)に認定するところにより明らかである。しかるところ、例えば、本件争議行為の一環としてなされた減速運転を取り上げると、運転士のなす運転行為自体は被控訴人の発した規程、業務命令等に準拠してこれをなしているものといわざるをえないから、減速運転中の列車の運転士の過失により人身事故が発生したときは、被控訴人は民法七一五条により不法行為責任を負わねばならぬこともありうる。しかしこれと別に考えられるのは、本件争議行為中は労組において正規の時刻表に従った運転を拒否し、列車を運転するか否か、着発の時刻等運行の管理は労組の手中にあり、これに対しては被控訴人は前記のようにいかんとも施すべき手段がなく、減速等を阻止しあるいは中止させて正常運転を行なわせることができないということである。本件貨物の前記延着はまさに労使関係のこの局面において惹起されたものであり、使用者の指揮監督を離脱した労組ないし被控訴人職員の行為に基づくものである。そうとすれば、右延着につき被控訴人は民法七一五条の使用者責任を負うものではない。それゆえ、控訴人の民法七一五条に基づく主張はすでにこの点において理由がなく採用することができない。

(二)  民法四四条による責任について

控訴人は、被控訴人の理事(総裁・副総裁を含む。以下同じ。)は本件争議行為を収拾するため当然なすべき努力を怠った過失により本件争議を発生させたものであるから、民法四四条によって不法行為責任を負うと主張する。

もとより、公労法の適用を受ける公共企業体であり、争議行為による業務の停廃が第三者に至大の影響を及ぼす被控訴人の立場に鑑みれば、組合側が争議行為に及ばんとしている場合、被控訴人すなわち理事(会)において、これを拱手傍観するのでなく、極力右争議行為を回避するために努力をなすべき義務があることはこれを否定しえない。

しかるところ、《証拠省略》によれば、被控訴人の当局は本件争議行為に対し次のとおり対処したものであることが認められる。すなわち、被控訴人は、昭和四八年の春闘に際しては本社及び各鉄道管理局に闘争対策本部を設置し、旅客・貨物列車の運行確保に努めたほか、各鉄道管理局においても、各機関の長をして部下職員に対し違法な争議行為に参加しないよう警告させ、特に、動労の動きを察知するや、同年三月一日動労幹部に対し話し合いもないまま闘争に入ることのないよう再考を促し、同月五日に話し合うことを約束したこと、しかるに、動労において右約束を守らず同月五日午前零時より順法闘争に突入したので、闘争中止を申し入れるとともに同日午後動労と話し合いを行ったこと、また、同月六日には専門的技術的問題については専門委員会を設けて話し合うよう提案し、同月八日には公労委に対しあっせんを申請したが、動労において公労委に対しあっせんの意図を問う旨の質問状を提出したりしたためあっせんが打ち切られたこと、その後被控訴人は再び自主解決に努力していたが、同月一〇日労働大臣から早急に事態を収拾するようにとの要請を受けるや、国労・動労と接衝して収拾に努めた結果、翌一一日午前国労は事態収拾をはかることに同意し、直ちに同月一二日からの闘争準備指令を中止するに至ったこと、動労においては収拾を拒否し闘争を続行していたが、同月一三日高崎線上尾駅で乗客の暴動事件が発生し、事態が重大化したため被控訴人においても総裁自ら動労三役に対し極力闘争中止を説得するとともに、「保安設備問題については今後予算実行に当って中央・地方で最大限の努力をする。運転保安については、乗務員等が提起した運転保安に関する設備等の条件につき中央・地方・現場を通じて検討し、解決に努力する。」旨の提案を行ったが、動労は深夜乗務等の二人乗務を強く要求して事態を収拾するまでに至らなかったこと、次いで同月一七日の動労の半日ストライキをひかえ、一六日午後九時四五分から再度国鉄総裁が動労委員長と会談し、一三日の右当局提案を再確認するとともに、深夜の乗務回数の問題についても乗務回数を減らす方針で検討し、早急に結論を得るように協議しようと提案したが、動労中央執行委員会はこれに応ぜず同月一七日午前零時三〇分ストライキ突入を決定したものであること、以上の事実が認められる。

しかして、右認定の事実に照らすと、被控訴人は、本件争議行為に関し、組合側の要求事項について、使用者側として当時において可能な限りの譲歩的提案をしつつ、公労法一七条違反の本件争議行為を回避あるいは中止させるべく努力したものであると認められる。そうすると、被控訴人理事らにおいて前記義務を尽したといえるから、その任務に懈怠があったということはできない。したがって、控訴人の民法四四条に基づく主張も採用することができない。

(三)  民法七〇九条による責任について

前記(二)に認定のごとく、被控訴人の理事に本件争議行為回避の努力を怠った義務違反があったとは認められないから、したがって、被控訴人が労働組合と一体となって鉄道営業法六条によって禁止される運送拒否と実質的に同視すべき事態を惹起せしめたものということもできない。それゆえ、本件争議行為が労使一体の違法行為として被控訴人自身の不法行為と評価しうることを前提とする控訴人の民法七〇九条に基づく主張も採用することができない。

3  以上要するに、本件争議行為によって惹起された前記延着につき被控訴人には不法行為責任がないから、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人主張の右延着による損害賠償の請求は理由がないものとして棄却すべきである。

四  以上の次第で、控訴人の本件控訴は理由がないものとして棄却すべきであるから、右と結論において同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本聖司 裁判官 浅野達男 寺本栄一)

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